「アンタの笛の音は心地いい」
そう言って小さく笑うのは、俺の従者であるハッカイ・アンフェアだ
まだまだ未熟でしかないその音を「心地いい」と彼は言った
周りが静寂に包まれた夜
かの有名なパステル家の屋敷から少し離れた小屋では、毎日のように笛の音が響いていた
「ハッカイ、屋敷で寝ていてもいいんだぞ?」
昼間、パステル家のために働いてくれていた使用人も騎士たちも
今はもう、夢の世界にいる時間だ
君だって、もう眠いだろうに
「いや、もう少し」
「……そうか」
いつもこれだ
ハッカイは俺が何を言っても、自分よりも先には寝てくれない
彼を説得することなど、端から諦めていた程だ
俺たちの関係は、貴族の跡継ぎとその護衛
所詮は金で雇い、雇われているだけ関係だというのに不思議なものだ
そしてこの夜のひと時は、俺にとっても心地いい、大切な時間なのだろう……